イスラーム地域研究5班
研究会報告

aグループ「知識と社会」第9回研究会報告

日時: 1月27日(土) 14:00〜
場所: 東京大学東洋文化研究所・3階第1会議室

 5年間にわたったイスラーム地域研究プロジェクトもいよいよ大詰めを迎えているが、われわれ「知識と社会」研究会も3年間の研究活動に一応 の区切りをつけるべき時期となった。そこで今回は、共同主宰者の一人である森本一夫が今までの活動を振り返り、今後にむけての課題を確認する 報告をおこなうことで、3年間の活動を総括する会とした。当日は,この3年間積極的に会に参加してくださった常連メンバーから、今回新たに参 加してくださったメンバーまで20人近くの参加者をむかえて、この研究会に対して忌憚ない意見や励ましの言葉が述べられ、会のしめくくりにふさ わしい有意義なものとなった。

 「「知識と社会」研究会の総括と展望」と題した森本報告では、研究会発足時の趣意書の内容をまず確認し、次に3年間計8回の具体的な研究会 活動について簡単な紹介(研究会活動の詳細について知りたい方は、5班のウェブサイト上の活動報告を参照されたい)をおこなったうえで、当初 の「志」と現実の研究会活動の「事実」との差を検証した。

 まず研究会の活動形態については、個別の研究発表に終始し、当初のもくろみのような多様な形態(書評会、メール等を用いた事前の打ち合わせ 等)をとらなかったことが指摘された。これに関してはひとえに運営側の怠慢として率直に反省せざるを得ない。
 次に趣意書に見られる当初の研究上のねらいが、各回の研究発表でどのように扱われたのかが検討された。歴代の研究発表で扱われたテーマが多 様であったことを反映して、報告者から指摘された点は多岐にわたったが、ここでは「できるだけ「知識」の内容自体に踏み込みながら」という当 初の問題関心になかなかアプローチできなかったという点を指摘するにとどめておこう。従来、「知の担い手=ウラマー」や「知の在処=マドラ サ」のみが扱われてきた現状を一歩のりこえようというのが研究会の一つのねらいであったが、それは残念ながら十分に果たせたとはいえなかっ た。しかしその一方で、「実際のカリキュラム内容か(カリキュラム内容を)修めているということ(そのもの)か」という研究会活動の中で生じ た問題関心は、この問題設定自体を問うものであり、今回の総括の会でもたびたび言及されることになった。

 最後に、今後の研究への提言が数点述べられた。まず、この「知識と社会」研究会はとりあえず3年間の活動を終えるものの、来年度以降も、研 究会の枠を維持した形であれ、そうでなくであれ、何らかの形で研究活動を続けられる可能性があるし、できるだけそうしていきたいということが 述べられた。そのうえで、今後の研究への展望として、知識の内容にふみこむにせよ、あるいは知識人論をやるにせよ、単なる個別の研究発表の連 続ではなく、共にテクストを読み込んだり、あるいは道具としての理論の勉強をするなど、より「共同作業」的な活動が必要になるのではないか、 との見通しが述べられた。

 以上のような森本報告に続いて、参加者全員に対して3年間の研究会活動に対するコメントが求められた。その全てをここで紹介することはでき ないが、「知識と社会」というテーマに対して各人が思うこと、連想することは実に多様で、ばらばらですらあったということを改めて感じた。知 識の内容についても、書記術や詩、はたまた建築技術など、いわゆるウラマーが担うにせよそうでないにせよ、法学とはまた別の知識も視野に入れ られるのではないかという指摘は複数の参加者から得られた。また、研究会立ち上げにあたって一旦は乗り越えようとした「ウラマー論」について は、今回の研究会活動を踏まえたうえで新たな展開が期待できるのではないか、あるいはそうでなければならないだろう、という意見も寄せられ た。他にも、結局当時の知識人の目を通してしかアプローチできない以上「知識と社会」に関わる議論はどうどうめぐりにならざるを得ないのでは という指摘や、イスラーム世界のものにかかわらず「知識」を扱ったより一般的な理論的枠組みについても理解を深めるべきであろう という提言など、認識のあり方や方法論に関わるコメントも寄せられた。主宰者側としては、これらの貴重な意見を何らかの形で今後の研究に活か していきたいと思う。

 主宰者側としては「ざんげの会」であるとの念を抱きながら臨んだ総括の会であったが、参加者からのコメントは比較的好意的なものが多く、そ の点では救われる想いがした。その一方で、この研究会活動に参加・協力してくださった多くの方々の好意に応えるためには、まだまだなすべきこ とはいくらでもあるとも痛感した会であった。最後に、「知識と社会」研究会にかかわった全ての報告者および参加者の皆さん、5班事務局の方 に、あらためて謝意を述べてこの報告を終えたい。3年間、本当にありがとうございました。

(文責・佐藤健太郎・森本一夫)


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