イスラーム地域研究5班
研究会報告

aグループ・第11回「サライ・アルバム」研究会報告

日時:2001年7月28日(土)14:00〜18:00
場所:東京大学東洋文化研究所・3階大会議室
参加者:13名

1)ヤマンラール水野 美奈子(東亜大学)「トプカプ宮殿美術館所蔵 サライ・アルバム(H.2153,H.2160)シンポジウムの報告」

  今年3月19〜20日に、トプカプ宮殿美術館において同館主催で開催されたサライ・アルバム研究に関するシンポジウムの報告が、録画映像を交えながら行われた。今回のシンポジウムで、ムラッカアという書物形態を考慮に入れての総合的研究、サライ・アルバムに多くの影響を与えた中国の美術・文化の諸要素の研究の必要性が新たに確認された。

2)黄 暁芬(東亜大学)「中国の先祖崇拝に関する図像」

中国の祖霊崇拝と密接に関わりのある龍、鳳、虎などの動物の象徴性や形態、それらが意味する死後の世界観などが、時代的変遷を追いながら紹介された。これらの動物はサライ・アルバムの中にも数多く描かれており、考古学的資料の有用性が改めて確認された。

3)杉村 棟(龍谷大学)「架鷹図」

  サライ・アルバムの作品中に現れる鷹図が、土着のものであるのか、それとも外来の作品の模写であるかを確定するために必要と考えられる諸事項が提示された。先ず「種類の同定」が必須であること、また止まり木、鈴、帽子など鷹具の分析が必要であることが指摘された。また、サライ・アルバムの作品に影響を与えたと考えられる中国の作品は、一流のものであるとは限らないこと、オリジナルな形態が伝播した先で、解釈を加えられ、変容し、複数の作品と合成あるいは置換された可能性も指摘された。

4)ヤマンラール水野 美奈子「杠(蓋の柄)を固定する俾倪に関して:山東省双乳山濟北王陵出土の俾倪とイスラーム世界の俾倪」

山東省双乳山濟北王陵出土の青銅鍍金俾倪と、サライ・アルバムH.2153 90b-91aの野外図で絨毯に座す貴人を覆う蓋の柄(杠)に見られる二つの俾倪の類似性についての報告があった。上記の中国の俾倪は、前漢のものであり、サライ・アルバムの貴人図とは年代的にほぼ1500年ほどの開きがある。しかし美術工芸や建築技法などで、伝統の継承を重んじた中国では、前漢時代の俾倪様式が後世まで伝わっていた可能性は高いと考えられる。サライ・アルバムに収められている絵画の細部の考察によって、イスラーム世界における中国文物享受の一端が明らかにされよう。

5)村野 浩(東海大学)「中国の玉座:新たな関連作品の紹介」

「文物」(2001年1号)で報告された北周時代の安伽墓、隋時代の虞弘墓の石造玉座が紹介された。それらの玉座には絵が描かれているが、その絵柄にゾロアスター教文化や西域のイスラーム以前のイランからの影響が窺われることが説明された。サライ・アルバムに見られる中国の影響を考察するにあたり、中国文化に見られるイスラーム以前の西域のイランの影響についても研究分析が必須であることが指摘された。

全研究発表後の質疑応答では、ターニング・ポイントに位置するサライ・アルバムの製作意図や歴史的重要性などについて、活発に意見が交換された。


戻る