イスラーム地域研究5班
調査報告

a グループ「サライ・アルバム研究会」トルコ出張報告

上記研究会は、3月19〜20日にトプカプ宮殿美術館においてサライ・アルバム研究に関するシンポジウムをトプ カプ宮殿美術館との共催で開催した。トルコと日本が共同でサライ・アルバム研究プロジェクトを発足させた平 成10年に、研究事業計画の一つとしてシンポジウム開催を予定したが、本シンポジウムはその第一回目として企 画されたものである。 本シンポジウムの発表は、「サライ・アルバム研究会」の成果として出版予定である。シンポジウムの内容・詳 細等に関しての質問は yaman@db3.so-net.ne.jp ヤマンラール水野美奈子まで。 なお本シンポジウムでトルコ語-日本語通訳をしていただいた青木美由紀さん(イスタンブル工科大学)、シン ポジウム準備と進行にかかわった松本菜穂子さん、鈴木映子さん(共に御茶ノ水大学)に感謝の意を表したい。

シンポジウム詳細は以下のようである;

シンポジウム名:トプカプ宮殿美術館所蔵サライ・アルバム(H.2153,2160)
日時: 平成13年3月19〜20日
会場: トプカプ宮殿美術館 講演会室

プログラムおよび発表内容の概要

3月19日

9:30  開会・挨拶
フィリズ・チャーマントプカプ宮殿美術館 館長
9:45-12:00 「H.2153のアルバムに関しての調査報告」
(1)「書画帳(アルバム)のデーターベース化に関して」
小林一枝 (使用言語 英語)
:日本チームのアルバム調査方法とデーターベースによって可能となる研究の例などが示された。
(2)「アルバムの構成に関する諸問題:集録したデーターや画像をもとに」
ヤマンラール水野美奈子 (使用言語 トルコ語)
:調査と撮影を完了したH.2153のフォリオ1〜115までの書画の分類、製本、書画の配置、紙質、書画の貼り方、枠取りなどの諸問題に関して。
13:30  「サライ・アルバムに関する研究の概観」
セルピル・バージュ(ハジテペ大学) (使用言語 トルコ語)
:サライ・アルバムがヨーロッパに紹介されてから今日にいたる欧米およびトルコを中心としたサライ・アルバム研究史
14:15  「サライ・アルバムの内容に関する評価」
バーヌ・マーヒル(ミーマル・スィナン大学)(使用言語 トルコ語)
:H.2153と2160の概要と書画の代表作品、それらの美術史における位置付け。
15:00  「ムラッカアの序文の考察(1):ムラッカアという書物形態と絵画・装丁技法に関する諸問題」
関喜房(東海大学) (使用言語 ペルシア語-トルコ語)
:諸ムラッカアの序文の研究をもとに、以下の5項目に関する発表を行った;
1)ムラッカアの意味の変遷 2)ムラッカアとジョング 3)ムラッカア製作の変遷 4)7画法の記述の出現に関して 5)ファッサーリーに関して。

3月20日

10:00  「スィヤー・カレム絵画グループの紙の種類」
フィリズ・チャーマン(トプカプ宮殿美術館)(使用言語 トルコ語)
:スィヤー・カレムのサインがある絵画グループの概要とそれらの絵画に使用された紙の分析、お よび画題に関して。
10:45  「サライ・アルバムにおける中国絵画の影響:鷹の図」
杉村棟(龍谷大学) (使用言語 英語)
:サライ・アルバムに貼られている鷹図の特色、および中国の鷹図との比較。
11:30 「玉座図像の諸問題(1):中国の玉座像とサライ・アルバムに見られる玉座像の比較研究」
村野浩(東海大学)(代読 ヤマンラール水野美奈子)(使用言語 トルコ語)
:中国における座の形式、座具の発展、座空間の構成と意味、座の思想を説明しながら、中国とイスラーム世界の玉座の共通点を指摘。
3:30  「サライ・アルバムに見られる鈴」
小柴はるみ(東海大学) (使用言語 日本語―トルコ語)
:サライ・アルバムの絵画に描かれた鈴・鐘の形態的分類、用途、分布、東方文化圏の鈴・鐘との比較。
14:15  「オスマン朝以前のサズ葉文様」
ヤマンラール水野美奈子(東亜大学)(使用言語 トルコ語)
:16世紀以降イスラーム世界で流行したサズ葉文様が、太湖石、蓮などのモチーフをもとに、ゲレフと言われるイスラーム文様の構成方法によって形成された過程を説明。
15:00  総括・討論
17:00  閉会
後記:
今回のシンポジウムでは、トルコと日本の研究者が以下の2点において共通の認識を得た;
・第一は、従来のサライ・アルバム研究では、主にアルバムに貼られた個々の作品の研究に重点が置かれたが、 今後の研究においては、ムラッカア(アルバムまたは書画帳)というイスラーム独特の書物形態を考慮した総合 的研究が必須であること。ムラッカアの構成の意図、書画の関連性、ムラッカア製作技法などの研究が要求され ると共に、他のムラッカアとの比較研究も必須である。
・第二にはサライ・アルバムに影響を与えた中国文化圏の美術・文化の諸要素のより徹底した研究の必要性であ る。これらはサライ・アルバム研究に新たな進展をもたらすと考えられ、上記のような認識を共有できたことは このシンポジウムの重要な成果だと考える。
(文責:ヤマンラール水野美奈子)


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