<講演概要>
自分は1993年に南スマトラのペラクのローカルな歴史研究を完成させたが、次の仕
事として他の地域の同様なケーススタディを重ねるよりも、東南アジア全体のアー
リー・モダンの時期の歴史を書こうと考え、その切り口として、これまで「女性の地
位が世界の他の地域と比べ相対的に高い」という一般論だけで具体的研究がなかった
ジェンダーを選んで、現在著書を準備中である。ジェンダーとは、さまざまな社会や
文化が男性と女性についてどう考えるか、人が女性や男性になっていくときになにが
おこっているのか、ということである。自分は東南アジアで1500〜1800年の時期に
ジェンダーがどのように構築されたか、それがどのように変化したかを基本的な問題
とする。
具体的なテーマとして、(1)山地によって中国やインドと隔てられ、風によって
太平洋地域と区切られることにより、東南アジアに独自のジェンダーエリアが成立し
ているという地理的条件、(2)主要史料である旅行家の記述の再検討などヒストリ
オグラフィの問題、(3)東南アジアにやってきた世界宗教がどのように男女につい
ての考え方を変えたか、男女のヒエラルキーの明白なそれらの宗教を、なぜ女性が支
持したかなど宗教に関する問題、(4)遠距離交易、プランテーション、「奴隷制」
などの経済関係、とくに普遍的に発生し主に家内労働に従事した奴隷の検討、(5)
つねに男女関係の規範化をはかる国家など、法と国家の問題を取り上げる。これによ
り、他の地域の研究者にも比較の対象を提供し、貢献しうるような歴史書を書きた
い。
講演の後、東南アジア島嶼部と大陸部の差異、東南アジア研究のなかで歴史学がおか れた位置その他、活発な質疑がおこなわれた。
(文責:片山 須美子(大阪大学大学院生))