東洋文化研究所の自己点検・評価

2014年度の自己点検・評価

1. 研究所の活動全体についての自己点検・評価(6年に一度)。
2. 研究所の准教授が教授に昇任する際の業績評価ならびに昇任理由
3. 研究所の教授が55歳となった年度の 業績の総括、本人の自己点検・評価、評価委員会による評価

 


2.研究所の准教授が教授に昇任する際に、その業績評価を行ない、昇任の理由を公表します。

中島隆博准教授の教授昇任 (2014.4.1付)

昇任理由

本文

中島隆博(なかじま たかひろ)氏 教授昇任評価
  2012年10月、本研究所准教授に就任した中島隆博氏は、2000年4月に本学大学院総合文化研究科助教授(2007年准教授に名称変更)に採用されて以来、活発な研究・教育活動を続けてきた。この間『残響の中国哲学―言語と政治』(2007年)、『共生のプラクシス―国家と宗教』(2011年)など、日本語書籍5点、英語書籍(ドイツ語、フランス語論文も含む)2点、中国語書籍1点、合計8点の書籍を単著として刊行した。その他主立った業績は、共編著5点、共著の著作32点、論文36点、翻訳10点の多数にのぼる。
  中島氏の仕事のねらいは「中国哲学を批判可能な哲学の言説として脱構築」することであり、通常の中国思想研究とはやや性格を異にしている。主としてフランスの現代哲学の成果を参照しながら、現代の社会や思想の状況のなかで、重視すべきものはなにか、考慮しなくてはいけないものは何か、を彼自身が考えること、すなわち、哲学を実践すること、が一貫して彼の営為を支えている。ここから生まれた産物が彼の著作であるといえよう。閉じた特殊な領域に閉じこもることなく、現代の世界に貢献しうるようなかたちで中国思想を再活性化すること、あるいは現代の哲学的営為になんらかのオータナティブをつきつけることのできるような思索を中国古典の精密な読みを通して引き出すこと、これが彼の中国哲学研究を特徴づけている。
  中島氏の取り扱う中国の思索は古代から現代にまで及び、その守備範囲は非常に広い。扱うテキストも思想や文学の文献だけではなく、現代の映像作品にまで及んでいる。従来の研究史や伝統的な註釈文献に十分な目配りをしつつ、全体を共有できる地平を新たに切り開くすぐれた力量を持ち、中国のみならず、西欧の哲学、日本の哲学や思想についても深い理解を示し、その結果生み出される研究は実に独創的であり、また該博な知識と堅実な読解力によって立論する手腕を十二分に発揮している。
  古代から現代まで、多彩な思索をうみだしてきた中国の哲学的営為を研究課題とする研究者は多いが、上述のように現代の哲学的営みと同じ立場で扱えるように中国の哲学的思索を組み替え、中国の哲学的思索を現代世界の哲学の一環として考えようという中島氏のような研究者は多くはないであろう。しかし、世界がますます狭くなる時代にあって、中国の思索をグローバルに翻訳し活用できるような研究の重要度は増しこそすれ、減ることはない。このような状況のなかで哲学を実践するという立場で中国哲学研究に携わる人たちの間で中島氏は、その研究の質・量どちらにおいても、一頭地を抜いていると考えられる。
  中島氏は日本語のみならず、中国語、英語、フランス語、ドイツ語によって研究発表をするなど、類を見ない情報発信力をもっている。それとともに、アメリカ、フランス、ドイツで客員教授、客員研究員を務める他、中国、台湾、韓国を始め世界各地の研究集会に参加し、また組織するなど、彼の行動力、ネットワーク形成力も特筆に値する。中島氏の研究活動はこれからの本研究所の、さらには日本の、アジア研究を進展させる上で大きな力となることは明らかである。
  また前任の総合文化研究科においても、部局の教育、研究を支えるさまざまな職務で大きな力を発揮しており、「共生のための国際哲学研究センター(UTCP)」(及びその先行組織)、「多文化共生・統合人間学プログラム」(博士課程教育リーディングプログラム)において中核的メンバーとして、本研究所准教授就任後も活発に活動を行っている。
  以上のような点から、優れた研究成果を発表することとともに、本学の、さらには日本における、アジア研究を推進することが期待されている本研究所の役割に鑑み、中島隆博氏は東アジア第二研究部門宗教・思想研究領域の教授として適任であると判断する。

 
中島隆博(なかじま たかひろ)氏の代表業績一覧
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/faculty/prof/nakajima.html

 

 

佐藤仁准教授の教授昇任評価 (2014.9.1付)

昇任理由

本文

佐藤仁(さとう じん)氏 教授昇任評価
  佐藤 仁氏は、これまで東南アジアを主たるフィールドとし、経済的に貧しい国々の天然資源をめぐる開発や発展の問題を中心課題とした地域研究、及び国際協力研究を行ってきた。同氏がカバーする研究領域の広さは特筆すべきものであり、政治学や林学、開発学、環境社会学、環境学、防災学、地理学、東南アジア地域研究、タイ研究、歴史学等、多岐にわたる。同氏のこの脱領域的な研究アプローチは、専門知の深化の副作用として生じる「学問の断片化」という現代的な問題を意識し、それを克服しようとした意欲的な試みである。同氏が取り組む研究内容も幅広く、戦後日本における援助受け入れや、資源政策史、資源の思想史といった歴史的な基礎研究から、東南アジアの熱帯林保全や災害時の緊急援助といった政策的な応用研究にまで及んでいる。
  佐藤氏は、開発援助や資源の問題を机上の規範論からではなく、フィールドワークによって得られる資源認識と利用に関する在来知や、利用の歴史的背景等の理解を含んだ実体論から分析してきた。従来は、貧しい国々や地域では、資源を充足できないことを前提とする政策、或いは政策研究がなされてきたが、そのような政策や研究の多くは、当該地域の外部から不足を埋め合わせる援助を当然視し、その土地に存在した在来知を捨象し、開発や資源分配の偏りを、単純に制度の不備や財源の不足という理由から説明するにとどまっていた。
  しかし佐藤氏は、このような短絡に陥りがちな政策論や政策研究に疑問をもち、開発と資源分配の偏りが必ずしも制度の不備や財源の不足ではなく、むしろ政策実施体制やそれを下支えする学問の断片化、特に自然と人間の相互作用を総合的に扱うための認識論の欠如によって生成されていることを発見した。さらに、同氏は多様な資源認識と利用における在来知の役割を再評価し、「資源保全」と「貧困の軽減」を両立する方法を模索してきた。
  佐藤氏は、2009年4月に本研究所に着任してから今日までの約5年間に、単著1点、編著3点(うち単編著2点、共編著1点〔いずれも英語著作〕)、訳書1点、論文39点(うち英語論文15点、印刷中1点、書評・書評論文3点、査読付き21点)、その他報告・小論等も含め、極めて優れた研究成果を多数発表してきた。同氏の研究水準の高さは、それが学術界において非常に高い評価を受けていることからも明らかである。
  その単著『「持たざる国」の資源論』(2011)並びに、それ以前の研究を総合する同氏の「人々の生存基盤としての資源論の確立を目指した相関的地域研究」にたいして、2013年度大同生命地域研究奨励賞が授与されている。さらに、2011年に同氏がファーストオーサーとして発表した、アジアの新興ドナー国の国際協力に関する研究論文は、開発学の分野で国際的に最も評価の高い雑誌の一つとして知られるWorld Development に掲載され、さらにそれは2013年に国際開発学会奨励賞を授与されている。
  そして、資源の認識と分配に着目した同氏の傑出した国際協力研究は、第10回(平成25年度)日本学術振興会賞(全25名受賞、うち人社系5名)に選考されるとともに、その受賞者の中からさらに日本学士院によって別途精選され、第10回(平成25年度)日本学士院学術奨励賞(全6名受賞、うち人社系1名)を授与されている。その秀逸な研究は、これまでのこの分野における業績として一頭地を抜いており、今後のさらなる研究の発展が大いに期待されるとの評価を受けた。
  佐藤氏は外部資金の獲得にも積極的で東洋文化研究所着任以降に新学術領域研究(研究課題提案型:「日本の被援助・開発経験の相互作用的研究」の研究代表者、基盤研究B(「東南アジアの資源をめぐる国家社会関係に関する比較研究」)の研究代表者を務め、旭硝子財団や鹿島学術振興財団などの民間団体からも研究資金を獲得している。
  同氏は多くの国内外の学会、研究会において主導的役割を果たし、理事、及び国際雑誌のeditorial member等も務めている。また、外務省ODA評価主任(2011~2013年)を務める等、国際的な社会貢献活動にも熱心に取り組んできた。さらに、フルブライト研究員としてプリンストン大学で研究(2010年8月~2011年8月)するとともに、同大学東アジア学部客員准教授(2014年2月~6月)として教鞭を執る等、国際的な研究・教育活動にも積極的に関わっている。同氏は東洋文化研究所、並びに東京大学の未来に大いに貢献してくれる有為の人材であり、さらに今後、世界的な視野の下で、広範な当該分野の研究、教育をリードする研究者になることが期待される穎脱した研究者である。
  以上のような業績から、佐藤仁氏は東洋文化研究所新世代アジア研究部門の教授に昇任する要件を、十全に満たしていると判断する。

 
佐藤仁(さとう じん)氏の代表業績一覧
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/faculty/prof/satoj.html

 

3.研究所の教授が55歳となった年度に、それまでの業績を総括し、今後の展望を語る会合を持ち、本人の自己点検・評価と評価委員会による評価を公表します。