法制史学会理事会は、若手会員に研究発表の場を提供し、法制史研究の新展開を期し、併せて会員の交流活動を発展させるべく、記念論集刊行を計画した。分野ごとに四名の編集委員が委嘱され、公募・査読を経て、編集委員会で慎重に検討し、一二本の論文が掲載されることとなった。古代から近現代、日本から東洋・西洋へと広がる、意欲作の集成である。現時点での到達点を示し、未完を自覚し、更新を俟つ法制史の研究として、世に問い批評を乞う趣旨に出たものである。少なくとも、編者のそうした意図は一定程度、果たされたものと信じる。(中略)
編集委員会が初回会合で協議した結果、「身分と経済」を緩やかな共通論題として原稿を募集することとした。法科派・文科派の双方に跨る論考であれば、必然的に、身分制社会や法と経済学に近い社会史的要素を含むと考えられたからであり、近代法史においても当事者・行為者の法的地位(身分)が重要論点となるからでもある。それは同時に、実質的に、若手会員の自由な発想による問題設定を尊重することにもなる。(「序文」より)
以上のような趣旨と経緯による論文集である。額定其労は東洋法制史「分野」からの編集委員を担当し、拙稿「奴隷なのか、従属民なのか――清代モンゴルにおける主従関係と人身売買――」を収録している。
序文 | |
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縦書き論文の部 | |
奴隷なのか、従属民なのか ――清代モンゴルにおける主従関係と人身売買 |
額定其労 |
近代日本における特許権者の素描 | 大泉陽輔 |
清代中国における府の初審機能 ――越訴の受理と審理に着目して |
木下慎梧 |
優先的判断事項の争奪と出訴方法 ――鎌倉末期公家訴訟にみる「沙汰之肝要」設定の実態 |
黒瀬にな |
表見相続人の和解行為に関する追認問題 ――Scaev. D. 2, 15, 3, 2 |
菅尾 暁 |
中世京都の赦免 | 高谷知佳 |
ドイツ第二帝政期における「領邦君主の家族」の身分と法学 ――ザクセン、コーブルク=ゴータ、オルデンブルク |
藤川直樹 |
天保・弘化期のオランダ法典翻訳におけるburger関連語の訳出 ――『和蘭律書』「断罪篇」を中心に |
山口亮介 |
横書き論文の部 | |
日本統治時代台湾における未成年者犯罪の処遇 ――裁判実務に着目して |
林 政佑 |
ユリアヌスの法解釈 ――アクィリウス法を素材に |
塚原義央 |
贖罪・収贖から罰金刑へ ――明治初期の刑事罰と法典化 |
高田久実 |
古代ローマの提示訴権と評価額減殺 ――学説彙纂第一〇巻第四章第九法文第八項(ウルピアーヌス『告示註解』第二四巻) に見る「価額を下回る」 |
佐々木健 |
額定其労・佐々木健・髙田久実・丸本由美子
編
『身分と経済―法制史学会70周年記念若手論文集―』
慈学社, 560ページ
2019年12月