中国とヨーロッパは、16~18世紀には互いの思想をさかんにやり取りしていました。このとき双方のあいだで翻訳者の役割を担っていたのが中国で活動したイエズス会宣教師です。本書では、この期間におけるイエズス会の中国宣教の最終段階であり、ヨーロッパにおける正式な学科としての中国学(Sinologie)の創設を間近に控えた18世紀後半という時代に焦点をあて、とりわけ乾隆帝に仕えたイエズス会士アミオ(Jean Joseph Marie Amiot)という人物を取り上げています。アミオは自らの見聞だけでなく、ヨーロッパと中国におけるさまざまな思想的源泉を縦横に参照しながら巨大な中国文明の翻訳に挑みました。彼の翻訳のなかに立ち現れるChineとは、それ自体が18世紀における東西思想の交わりによって構築された産物にほかなりません。
幅広い分野にまたがった内容ですので、ぜひ色々な方にお手にとっていただけたら幸いです。
序 章 在華イエズス会士と文明の翻訳 | |
はじめに | |
1 研 究 史 | |
2 本書の目的 —— 普遍をめぐる問い | |
3 アミオという人物について | |
第Ⅰ部 中国文明とカトリック・科学との接続 | |
第1章 | 適応政策と中国研究の展開 |
はじめに | |
1 適応政策の確立 | |
2 「適応」 のもとでの西学とヨーロッパ中国学 | |
3 適応政策の動揺 | |
4 18世紀後半における多元的適応 | |
おわりに | |
第2章 | 典礼論争後における孔子像の創造 |
はじめに | |
1 孔子像の流通と典礼論争からの影響 | |
2 アミオ 『孔子伝』 と明~清代中国の出版状況との関わり | |
3 「天」・「上帝」=天主説への回帰 | |
おわりに | |
第3章 | 中国音楽における科学の発見 |
はじめに | |
1 世界最古の音楽としての中国音楽 | |
2 中国音楽における 「科学」 | |
3 ヨーロッパにおける 「科学」 をめぐる議論のなかで | |
4 「科学」 と 「技芸」 | |
おわりに | |
第4章 | メスメリズムと陰陽理論の邂逅 |
はじめに | |
1 中国の伝統的治療・養生の術における陰陽の気 | |
2 メスメリズムと陰陽理論の符合 | |
3 アミオによる陰陽理論解釈の独自性 | |
おわりに | |
第Ⅱ部 清朝という帝国と普遍 | |
第5章 | 18世紀在華イエズス会士と北京社会との接点 —— 北堂を中心に |
はじめに | |
1 明末清初における中国の人々との交際 | |
2 清朝宮廷における宣教師の働き | |
3 18世紀後半の北堂に出入りした人々 | |
おわりに | |
第6章 | アミオがとらえた清朝の統治構造 |
はじめに | |
1 アミオ以前に発表された中国皇帝像 | |
2 乾隆帝、清朝官僚に関する報告 | |
3 アミオの清朝政治観 | |
おわりに | |
第7章 | 「文芸共和国」 の普遍語としての満洲語 |
はじめに | |
1 満洲語文法の解説 | |
2 「明晰」 な言語としての満洲語 | |
3 中国における 「文芸共和国」 | |
おわりに | |
第8章 | 清朝の統治空間をめぐる最新情報 |
はじめに | |
1 17~18世紀の在華イエズス会士が描いた中国という空間 | |
2 アミオがもたらした新しい情報 —— 『四訳館考』 と 『大清一統志』 | |
おわりに | |
第9章 | 『中国帝国普遍史概説』 と清朝官修典籍 |
はじめに | |
1 「世俗の」 歴史としての中国史 | |
2 聖書年代学をめぐる嵐と中国史 | |
3 中国史を3つの時代に区分すること | |
4 天文観察記録をめぐる論争 | |
5 いかなる中国文献を選択すべきか | |
6 アミオによる中国史叙述 | |
おわりに | |
終 章 アミオの中国像とその後 | |
注 | |
あとがき | |
参考文献 | |
図表一覧 | |
索引 |