書籍紹介

名和 克郎 編 『体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相:言説政治・社会実践・生活世界』

編者からの紹介

 

  本書は、ネパールにおける過去10年の社会動態を、「包摂」の語をキーワードとして、多角的に捉える試みである。「第二次民主化」が起こり10年以上にわたる「内戦」が終結した2006年以降のネパールは、立憲王国から連邦民主共和国への体制転換期と捉えることが出来る(なお、2017年3月末現在、2015年に成立した新憲法に基づいた国政選挙は行われておらず、体制転換期が終了したとは言い難い状況である)。ネパール史上初めて国民自身による新たな憲法を制定し「新ネパール」を築くことへの希望から始まったこの時期、様々な集団範疇に基づく権利主張と、それに関する様々な立場からの議論が、従来以上に盛んになった。他方この時期はまた、ネパール国外への出稼ぎが、ネパールに住む多くの人々にとって、ごく身近な可能性となった時期でもある。大きく変容しつつあるネパールとそこに住む人々の動きをそれなりの統一性をもって論じるために、本書は、2006年以降ネパールで大きな重要性を持った語「inclusion(包摂)」と、そのネパール語訳サマーベーシーカラン(samāveśīkaraṇ)に注目する。民族、カースト、ジェンダーといった問題をはじめとする「包摂」の語を通して見えてくる状況のみならず、「包摂」を巡る議論からはこぼれ落ちてしまいがちな状況も含め、多くの研究者が自らのフィールドでの経験を通して捉え分析することで、論文の執筆時点で現在進行形であったネパールの多面的な変容を、よりよく理解することが、目指されている。

目次

序章 体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相――言説政治・社会実践・生活世界/名和克郎
第1章 近現代ネパールにおける国家による人々の範疇化とその論理の変遷/名和克郎
第2章 ネパールの「カースト/民族」人口と「母語」人口――国勢調査と時代/石井溥
第3章 国家的変動への下からの接続――カドギのカースト表象の展開から/中川加奈子
第4章 ガンダルバをめぐる排除/包摂――楽師カースト・ガイネから出稼ぎ者ラフレへ/森本泉
第5章 ネパール先住民チェパン社会における「実利的民主化」と新たな分断――包摂型開発、キリスト教入信、商店経営参入の経験/橘健一
第6章 何に包摂されるのか?――ポスト紛争期のネパールにおけるマデシとタルーの民族自治要求運動をめぐって/藤倉達郎
第7章 そこに「女」はいたか――ネパール民主化の道程の一断面/佐藤斉華
第8章 テーマ・コミュニティにおける「排除」の経験と「包摂」への取り組み――人身売買サバイバーの当事者団体を事例に/田中雅子
第9章 ストリート・チルドレンの「包摂」とローカルな実践――ネパール、カトマンドゥの事例から/高田洋平
第10章 乱立する統括団体と非/合理的な参与――ネパールのプロテスタントの間で観察された団結に向けた取り組み/丹羽充
第11章 「包摂」の政治とチベット仏教の資源性――ヒマラヤ仏教徒の文化実践と社会運動をめぐって/別所裕介
第12章 移住労働が内包する社会的包摂/南真木人
第13章 多重市民権をめぐる交渉と市民権の再構成――在外ネパール人協会の「ネパール市民権の継続」運動/上杉妙子
第14章 現代ブータンのデモクラシーにみる宗教と王権――一元的なアイデンティティへの排他的な帰属へ向けて/宮本万里
おわりに/名和克郎

関連情報

名和 克郎
『体制転換期ネパールにおける「包摂」の諸相: 言説政治・社会実践・生活世界』 東洋文化研究所叢刊 31,   三元社, xi+579頁
2017年03月 ISBN: 9784883034338

東洋文化研究所叢刊

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