大澤真幸さんの編集になるこの本は、第Ⅰ部「世界の伝統宗教が映し出す「現代」」と、第Ⅱ部「「こころ」の変化は何を問いかけるか」からなる。ポスト世俗化とも呼ばれる現代において、宗教は再び焦点化された問いの場となっている。そして、その宗教が根ざしていた「こころ」もまた大きな変容を遂げている。こうした課題を、10名の論者によって探求したものである。中島隆博はその中で、「中華の復興――中国的な普遍をめぐるディスコース」を担当した。編者はこの内容を踏まえた上で、「日本人は、西洋の普遍性を受容することに主に注力し、普遍概念の構築には消極的だったと言わざるをえない」と論じる。とはいえ、末木文美士論文「仏教のアクチュアリティ――伝統思想をどう捉え直すか」が示すように、戦後の小伝統と近代の中伝統を超えた日本の大伝統に見いだされる、菩薩の倫理のようなものは、アクチュアリティとともに普遍性を有しているとも考えられる。この本が全体として、近代と普遍を考え直す一助となればと思う。
総説 宗教の現代性 大澤真幸 | |
I 世界の伝統宗教が映し出す「現代」 | |
1 |
「世界標準」としてのキリスト教 山内志朗(慶應義塾大学) |
2 |
イスラーム主義・宗派主義と暴力化 酒井啓子(千葉大学) |
3 |
中華の復興――中国的な普遍をめぐるディスコース 中島隆博(東京大学) |
4 |
宗教性からみたインド――存在の平等性にもとづく多様性の肯定 田辺明生(東京大学) |
5 |
仏教のアクチュアリティ――伝統思想をどう捉え直すか 末木文美士(仏教学者) |
II 「こころ」の変化は何を問いかけるか | |
6 |
現代社会における物語 河合俊雄(京都大学) |
7 |
精神の病が映す「こころのゆくえ」――統合失調症と自閉症 内海 健(東京藝術大学) |
8 |
幸福な社会とよい社会 古市憲寿(社会学者) |
9 |
成熟社会における宗教のゆくえ――宗教復興か世俗化か 芳賀 学(上智大学) |
10 |
オウム真理教事件――21世紀からの再考 島田裕巳(宗教学者) |
大澤真幸【編】 中島隆博 ほか
著
岩波講座 現代 第六巻『宗教とこころの新時代』
岩波書店, 264ページ
2016年5月
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