「本書は、2000年に出版された The Power to Choose: Bangladeshi Women and Labour Market Decision in London and Dhaka (Verso, 2000, 464ページ)の邦訳である。著者のナイラ・カビール(Naila Kabeer)は、ジェンダー研究、および開発研究の世界的な第一人者であり、現在はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)ジェンダー研究所の教授を務める。2015年にジュネーブの国際・開発問題高等研究所から発表された世界のジェンダー専門家に関する報告書では、「世界で最も影響力のあるジェンダー研究者」と「国際機関や国際NGOに雇用される、最も影響力のあるジェンダー専門家」のいずれの項目でも第1位に選ばれている。本書は、カビールの代表的な著作であり、ジェンダー研究、開発学などにおける必読書として欧米の大学院のリーディングリストに入っているのみならず、その学際的な知見と貢献から、移民・エスニシティ研究、グローバリゼーションの研究や産業分析、都市研究、階層・格差研究などの分野で幅広く参照されてきた。筆者が把握しているだけでも18本の書評が出ており、その反響の大きさが分かるであろう。現代においても深く示唆に富むと同時に、古典としても読み継がれていくであろう書物として扱われている。また、日本語版序文に述べられている通り、モニカ・アリ(バングラデシュ系イギリス人)は本書からインスピレーションを得て、小説『ブリックレーン』(2003年)を執筆した。アリは、その処女作でブッカー賞の候補に残り、26カ国で翻訳が出され、2007年には映画化もされた。カビールは筆者との会話の中で、小説化について、「学術書にたいする最も予期していなかった反応であり、とても嬉しい反応でもあった」と語っている。」
(遠藤環「解説にかえて」本書、401ページより参考文献と脚注の一部を削って引用)
日本語版に寄せて | |
はしがきと謝辞 | |
第 1 章 | 労働の基準、二重基準? 国際貿易における選択的連帯 |
第 2 章 | 「合理的な愚か者」と「文化的なまぬけ」? 社会科学における構造と行為主体性に関する諸説 |
第 3 章 | 黄金のバングラの変わりゆく顔 ダッカ調査の背景 |
第 4 章 | パルダの再交渉 ダッカにおける女性労働者の労働市場における意思決定 |
第 5 章 | 個人化されたエンタイトルメント |
第 6 章 | 七つの海と一三の河を越えて ロンドン調査の背景 |
第 7 章 | 構造の再構成 ロンドンにおける家内労働者の労働市場における意思決定 |
第 8 章 | 仲介されたエンタイトルメント 在宅の出来高賃金労働と世帯内権力関係 |
第 9 章 | 労働市場における排除と経済学 逆説の説明 |
第 10 章 | 選択の力と「見えない事実の確認」 構造と行為主体性の再検討 |
第 11 章 | 弱い勝者、強い敗者 国際貿易における保護主義の政治学 |
附録1 | 研究方法に関する覚書 |
附録2 | ダッカ調査の統計的背景 |
附録3 | ロンドン調査の統計的背景 |
略語一覧 | |
参考文献 | |
講演録 「女性のエンパワーメントに関する調査研究の回想録:旅路、地図、そして道標」 | |
解説にかえて |
ナイラ カビール 著, 遠藤 環/
青山 和佳/韓 載香 訳
『選択する力:バングラデシュ人女性によるロンドンとダッカの労働市場における意思決定』
ハーベスト社, 449頁
2016年04月