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第3回定例研究会 韓国民衆運動における「記憶」の行方―『烈士の誕生』韓国語版刊行に寄せて

【日 時 / Date】
2016年2月4日(木)14:00-16:00
2:00-4:00PM on Thursday 4th February 2016

【会 場 / Venue】
東京大学東洋文化研究所 3階 大会議室
Conference room 303 (3rd floor), Institute for Advanced Studies on Asia, The University of Tokyo

【題 名 / Title】
韓国民衆運動における「記憶」の行方―『烈士の誕生』韓国語版刊行に寄せて

【発表者 / Speaker】
真鍋 祐子 (東洋文化研究所・教授)
MANABE Yuko (Professor, IASA)

【司 会 / Chairperson】
黒田 明伸 (東洋文化研究所・教授)
KURODA Akinobu (Professor, IASA)

【コメンテーター / Commentator】
金 成玟(北海道大学・准教授)
KIM Sungmin (Associate Professor, Hokkaido Univ)

【使用言語 / Language】
日本語 / Japanese


◇概要 / Abstract
 昨秋、拙著『烈士の誕生―韓国民衆運動における「恨」の力学』(1997年)の韓国語版が刊行された。70~90年代初め、韓国では民主化や民族統一を求める運動の中で抗議の自殺が頻発した。特に80年代半ば以降の運動は、デモ中の不慮の事故死等を含むこれら犠牲者たちを「烈士」と称し、弔い合戦として展開された。本書はそうした韓国民主化運動の軌跡を儀礼論の視点から構成した動態的民族誌である。翻訳者である金景南牧師は、ソウル大の学生だった時に民青学連事件(74年)に連座して刑に服し、民主化運動の牙城のひとつであった第一教会の信徒として民衆神学者・朴烔圭牧師のもとで運動に参画し、その後には『世界』に「韓国からの通信」を連載して民主化を支援してきたT.K生こと池明観や、呉在植の東京での活動を支えてきた人物である。原著が刊行された直後に翻訳の話があったが、金大中大統領の誕生により民主化宣言(87年)に至るまでの暗い時代に対する関心が急速に薄れたことや、朴正熙から30年余に及んだ軍事独裁の時代とこれに対峙して夥しい血が流された暗鬱な時代が多くの人々には「目を背けたい過去」であったこと、IMF危機にともなう出版不況に加え、民主化運動犠牲者の遺族会の内部事情などにより、一旦は頓挫した。それが18年もの時をへて実現された背景には、民主化運動を担ってきた人々の韓国社会の現状に対する深い憂慮があったように思われる。
 民主化運動圏が、夥しい数の「烈士」を誕生させ、弔い合戦を介して死の意味を逆転し、韓国社会を民主化宣言へと導いてきた過程とは、記憶の闘争過程でもある。5・18(光州事件)や4・3(済州島の四三事件)の犠牲者が、「アカ」や「暴徒」から名誉復権され、「民主英霊」に転換させられた一方で、これに対峙して弾圧した権力者たちの歴史は逆転的に貶価された。本書では民主化宣言をハッピー・エンドとみなさず、分断状況が続く限り、記憶の闘争は非連続的に連続するだろうとの見通しを示して、結びとした。はたして近年、ニューライト勢力が台頭し、朴槿恵政権によって歴史教科書国定化が決定されるなど、韓国で歴史認識の厳しい揺り戻しが起きていることは周知のとおりである。2013年末には大統領選挙の無効を訴える労働者が「焚身自殺」をとげるなど、再び「烈士の誕生」が見られるようになっている。このような記憶の闘争の動きは、先ごろ日韓間で妥結した「慰安婦」をめぐる問題や、ベトナム戦時民間人虐殺にかかわる謝罪運動など、国際間のヨコの問題とも不可分に結びついている。本報告では、本書が扱った韓国現代史における運動圏の側の「記憶」の行方を、その後の体制側との記憶の闘争をたどることで再構成し、同時にまた、その間の研究・調査の遂行にあたっての私自身の体験を紹介しつつ、新自由主義とグローバル化を経た21世紀の韓国における「烈士の誕生」という(18年越しの)古くて新しいテーマを再考することにしたい。

担当:真鍋



登録種別:研究会関連
登録日時:TueJan1919:28:092016
登録者 :真鍋・山下
掲載期間:20160121 - 20160204
当日期間:20160204 - 20160204