題目: 中国新疆ウイグル自治区におけるイスラム教管理
講演者: Kara Miriam Abramson テンプル大学ロースクール東京キャンパス講師、東京大学・東洋文化研究所・訪問研究員
日時: 2013年6月3日(月)午後1時から3時。
言語: 英語。
場所: 東京大学・東洋文化研究所・第二会議室
主催: 東京大学・東洋文化研究所・班研究「中国法研究における固有法史研究、近代法史研究及び現代法研究の総合の試み」(主任 高見澤磨・東京大学・東洋文化研究所・教授)
参加者:報告者を除き14名
報告及び討論:
Kara Miriam Abramson氏により、中国新疆ウイグル自治区におけるイスラム教の管理について報告がなされた。中華人民共和国憲法において信教の自由が規定され、宗教管理行政においては仏教・キリスト教(カトリック及びプロテスタント)・道教・イスラム教が認められているが、国家により厳しく統制され、イスラム教徒であるウイグル族の中に分離主義活動が活発であると政府が主張する新疆においては、特に厳密に統制されている。
新疆における宗教活動、特にイスラム教の活動は広範囲の条例や政策によって規制されている。モスクや聖職者は国家により厳しく監視され、いわゆる非法宗教的出版物は検閲の対象とされている。イスラム教を強く意識させるような男性の長い髭や女性のヴェール、民族衣装は地方のキャンペーンでは廃止の目標とされている。ラマダンについても大学生を含む学生や国家公務員(場合によってその家族を含む)は宗教活動に参加することが禁止されており、レストランも開けておくことが要求されている。
その一方で、現実にはキャンペーンが効果的に実行されていない結果、政府の管理の外で宗教活動が行われるグレーゾーンが存在する場合がある。しかし、規制が徹底的に執行される場合もあり、ウイグル人が政府の認める枠以外で宗教活動を行ったため嫌がらせをされたり、拘留されたり、又は逮捕されたりするケースもある。
次に、新疆ウイグル自治区の和田地区の事例で、恐らく当該地域に見られる特有のものであると思われるが、殆どの村民が自発的に「遵規守約承諾書」を締結し、地域で定める宗教活動秩序に従うことを約束し、それに違反すると「罰款」(過料に相当)が科されることを受諾する制度があり、実効性を持っている現状について報告がなされた。宗教管理の道具として使われているこの遵規守約承諾書は、自発的な承諾とされるが、実際にはこれは村民を行政的に処罰するものであって中華人民共和国行政処罰法の規定に違反している可能性がある。
最後に、新疆における実情の検討、特に宗教管理の検討を通じて中国の法の支配の現状を理解するための重要性が主張された。
質疑応答では、こうした和田地区で行われている制度の合法性や承諾行為の契約としての法的性格の有無、西洋的な立場から中国における法の支配の問題を考察することの妥当性、またこうした国家の宗教管理の観点からの中東やフランスの例との相違といった点からの議論がなされた。