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教員の新著が出版されました。後藤末雄 著 / 新居洋子 校注 『乾隆帝伝』

校注者による紹介

 

  本書は、後藤末雄氏による『乾隆帝伝』(1942)の復刻版です。乾隆帝は、約300年という長期間にわたって中国支配を維持した清朝の歴代皇帝のなかでも、最盛期を実現しました。その強力な支配力は、軍事と文化の両面を貫く形で発揮されたといえます。たとえば、本書で詳しく語られるごとく、乾隆帝は十回におよぶ外征によって版図を拡大しつつ、その征服過程を「得勝図」に描かせ、さらに新たな領土を加えた全国地図を制作させました。
  こうした「得勝図」や全国地図の制作に駆り出されたのが、当時清朝宮廷に仕えたカトリック宣教師、とりわけイエズス会の宣教師です。彼らが活動した明末~清代中期、キリスト教布教は容認と禁止のあいだを大きく揺れ動き、各地方では多くの教案が発生しました。清朝宮廷に仕える宣教師は、キリスト教布教への公許を獲得するため、さまざまな工作を行う一方で、あるいはその実現のために、乾隆帝による文化事業を支え続けました。つまり彼らは清朝の内と外を往復しながら、あるいはその境界で生を営んだといえます。
  こうしたきわめて特殊な境遇のなかで、イエズス会宣教師が紡ぎ出した報告をもとに、彼らの眼からみた乾隆帝像を再現したのが、本書『乾隆帝伝』です。従来、イエズス会宣教師は中国をひたすら賛美し、理想化したと捉えられてきたのですが、本書から伝わってくるのは、ある種の測りがたさと恐ろしさを秘めた乾隆帝の姿に他なりません。ぜひ多くの方々に本書をお手にとっていただき、宣教師と乾隆帝とのあいだで繰り広げられる歴史/物語を味わっていただきたいと思います。


目次等その他の詳細情報は「刊行物・教員の著作コーナー」に掲載された記事をご覧ください。



登録種別:研究活動記録
登録日時:MonAug815:24:532016
登録者 :新居・野久保(撮影)・藤岡
掲載期間:20160808 - 20161108
当日期間:20160808 - 20160808