データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ASEAN協和宣言

[場所] バリ
[年月日] 1976年2月24日
[出典] わが外交の近況(外交青書)20号(下巻),171‐174頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 インドネシア共和国大統領、マレイシア首相、フィリピン共和国大統領、シンガポール共和国首相及びタイ王国首相は、

 バンドン、バンコック及びクアラルンプール各宣言並びに国連憲章に対するコミットメントを再確認し、

 加盟国国民の平和、進歩、繁栄及び福祉の促進に努力し、

 経済、社会、文化及び政治の分野におけるASEANの成果の定着化とASEAN協力の拡大を目指して

 ここに宣言する。

 ASEAN協力は、政治的安定の追求において特に次の目標と原則を考慮に入れることとする。

1.加盟国及びASEAN地域の安定は、国際的な平和と安全保障に対する重要な貢献である。各加盟国は、破壊活動が各国の安定にもたらす脅威を除去し、国としてのまたASEANとしての強靱性を強化する。

2.加盟国は、個別的及び集団的に、平和、自由及び中立地帯の早期創設のために積極的な施策をとる。

3.貧困、飢餓、疾病及び文盲の除去は、加盟国の第一の関心事である。このため加盟国は、特に社会正義の推進及び国民の生活水準の改善に重点を置いて、経済的社会的発展のための協力を緊密にする。

4.自然災害及びその他の災害は、加盟国の発展歩調を遅らせるものである。加盟国は、可能な範囲で、窮迫にあえぐ加盟国の救済のため援助を与える。

5.加盟国は、それぞれの国民経済の相互補完性を拡大するため、ASEAN地域で入手可能な資源をできるだけ利用しつつ、その国家及び地域発展計画の遂行にあたつて協力行動をとる。

6.加盟国は、ASEAN連帯の精神に則り、域内不和の解決において専ら平和的手段を採る。

7.加盟国は、相互尊重及び互恵を基礎として、東南アジア諸国間の平和的協力の推進に資する条件を作るため個別的及び集団的な努力を行う。

8.加盟国は、地域同一性の意識を発展させると共に、互恵的関係を基礎とし、かつ、民族自決主権平等及び内政不干渉の原則に従つてすべての国から尊重されかつすべての国を尊重する、強力なASEAN共同体を創設するため、あらゆる努力を行う。

 ASEAN協力のための枠組として次の行動計画をここに採択する。

A.政治

1.必要に応じ加盟国首脳が会合すること。

2.東南アジア友好協力条約を調印すること。

3.域内紛争を平和手段により可及的速やかに解決すること。

4.平和、自由及び中立地帯の承認と尊重への第一歩を可能なものからすみやかに検討すること。

5.政治的協力を強化するため、ASEAN組織を改善すること。

6.ASEAN犯罪人引渡し条約の可能性を含め、司法的協力をいかに発展させるかの検討を行うこと。

7.見解の調和を促進し、立場の調整を行い、また、可能かつ望ましい場合には、共同行動をとることにより、政治的連帯を強化すること。

B.経済面

1.基礎的産品、特に食糧及びエネルギーに関する協力

(i)加盟国は、基礎的産品、特に食糧及びエネルギーに関し、危機的状況の場合、個々の国家の必要に応じ優先的に供給を受け、かつ加盟国から優先的に輸出を受けることにより、相互に助け合う。

(ii)加盟国は、また、域内加盟国における基礎的産品、特に食糧及びエネルギーの生産において協力を強化する。

2.産業協力

(i)加盟国は、特に基本的産品に対する域内の必要性を満たすため、大規模なASEAN産業プラント設立について協力する。

(ii)優先順位は、加盟国で入手可能な資源を利用し、食糧生産の増大に貢献し、外貨収入を増加し、又は外貨を節約し、雇用の創設に貢献するプロジェクトに与えられる。

3.貿易における協力

(i)加盟国は、新しい生産と貿易の開発及び成長を促進し、今後の発展のためASEAN加盟各国内及び加盟国間の貿易構造を改善し、外貨収入及び準備を維持かつ増大させるため、貿易の分野で協力する。

(ii)加盟国は、長期的目標として今後一連の交渉を通じて、全会一致によつていずれかの時点において適当と見なされる基礎の上に立つての特恵的貿易制度の確立に向かつて前進する。

(iii)加盟国間貿易の拡大は、基礎的産品、特に食糧及びエネルギーにおける協力、及びASEAN産業プロジェクトにおける協力を通じて促進される。

(iv)加盟国は、一次産品及び完成品に対する域外市場におけるあらゆる貿易障害の除去を追求し、これらの産品の新たな利用方途を開発し、また地域的集団及び個々の経済大国との関係において共同のアプローチ及び行動を採択することにより、これらの産品のASEAN域外市場へのアクセスを改善するための共同の努力を一層促進する。

(v)かかる努力は、生産を増大し、輸出産品の品質を改善し、また、輸出を多様化するため新しい輸出産品を開発するための技術及び生産方法における協力にも及ぶものとする。

4.国際商品問題及びその他世界経済問題に対する共同アプローチ

(i)貿易に関するASEAN協力の原則は、国連及びその他関係多数国間フォーラムにおいて新国際経済秩序の確立に貢献する目的で行われている国際貿易制度の改革、国際金融制度の改革及び実物資源移転等の国際商品問題及びその他世界経済問題に対する共同アプローチにおいても優先的に反映されるものとする。

(ii)加盟国は、バッファーストック・スキーム及びその他の方法を含む商品協定を通じ、加盟国により生産輸出される商品の輸出所得の安定化及び増加に優先的考慮を与える。

5.経済協力の機構

 次の目的のために経済問題に関する閣僚会議を定期的に又は必要に応じて開催する。

(i)ASEAN経済協力の強化のため、加盟国政府の検討に付する勧告を作成するため。

(ii)経済協力に関し合意されたASEAN計画及びプロジェクトの調整及び実施を検討するため。

(iii)地域発展調和へのステップとして国家的開発計画及び政策に関し、意見を交換及び協議を行うため。

(iv)加盟国政府の合意に基づき、その他の関係機能を果たす場合。

C.社会

1.公正な報酬を与えられる生産的雇用の機会の拡大を通じ、特に低所得層及び地方住民の福利に重点を置き、社会開発分野において協力すること。

2.ASEAN共同体の全ての分野及び階層、特に婦人及び青少年の開発努力への積極的参加を支持すること。

3.ASEAN地域の人口増加問題に対処するため現行協力を強化し、かつ拡大し並びに可能な場合には適当な国際諸機関との協力による新戦略を作成すること。

4.麻酔剤の乱用及び麻薬取引の防止及び撲滅のため、加盟国間及び適当な国際団体との間の協力を強化すること。

D.文化及び情報

1.加盟国の学校及びその他研究機関におけるカリキュラムの一部として、ASEAN及び同加盟国並びに同国語についての修学を導入すること。

2.ASEANの学者、作家、芸術家及びマス・メディア代表者が地域的同一性及び友情の感覚を助長するために積極的な役割を演じることを可能にするため、彼等を支持すること。

3.国立研究所間の緊密な協力を通じ、東南アジア研究を促進すること。

E.安全保障

 相互の必要性及び利益に従い、安全保障問題においてノンASEANベースで加盟国間の協力を継続すること。

E.ASEAN機構の改善

1.ASEAN事務局設置に関する合意に署名すること。

2.効率向上のため、ASEANの組織的構造を定期的に見直すこと。

3.ASEANの新しい基本的枠組みが望ましいか否かを研究すること。