データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ワルシャワ条約(アルバニア人民共和国,ブルガリア人民共和国,ハンガリー人民共和国,ドイツ民主主義共和国,ポーランド人民共和国,ルーマニア人民共和国,ソヴィエト社会主義共和国連邦及びチェッコスロヴァキア共和国間の友好,協力及び相互援助条約)

[場所] ワルシャワ
[年月日] 1955年5月14日作成,1955年6月6日発効
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),715‐718頁.主要条約集,1707‐1715頁.
[備考] 
[全文]

 締約国は、

 ヨーロッパのすべての国が社会及び国家制度に関係なく参加することを基本とし、それらの国のヨ−ロッパの平和を確保するための努力の結集を可能にするヨーロッパにおける集団安全保障体制を樹立するの願望を再確認し、

 同時に、再軍国化した西ドイツの参加の下における「西ヨーロッパ連合」の形における新たな軍事的共同戦線の結成及び北大西洋ブロックへの西ドイツの加入を規定し、その結果新戦争の危険が高まり、かつ、平和愛好国の国の安全に対する脅威が醸成されたパリ協定の批准によつてヨーロッパに生起した情勢を考慮し、

 ヨーロッパの平和愛好国が、これらの情勢の下に、その安全の擁護及び、ヨーロッパにおける平和の維持のため、必要な措置を執らなければならないことを確信し、

 国際連合憲章の目的及び原則に導かれて、

 国家の独立及び主権の尊重並びに内政不干渉の原則に従い、友好、協力及び相互援助の一層の強化と増進のために

 友好、協力及び相互援助に関するこの条約を締結することに決定し、よつてその全権委員を次の通り任命した。

 アルバニア人民共和国人民会議幹部会

 アルバニア人民共和国大臣会議議長

 メフメット・シェフウ

 ブルガリア人民共和国人民会議幹部会

 ブルガリア人民共和国大臣会議議長

 ヴィルコ・チェルヴェンコフ

 ハンガリー人民共和国幹部会

 ハンガリー人民共和国大臣会議議長

 アンドラシ・ヘゲデュシ

 ドイツ民主主義共和国大統領

 ドイツ民主主義共和国首相

 オット・グロテヴォ−ル

 ポーランド人民共和国国家会議

 ポーランド人民共和国大臣会議議長

 エゼフ・ツィランケヴィチ

 ルーマニア人民共和国大国民会議幹部会

 ルーマニア人民共和国大臣会議議長

 ゲオルゲ・ゲオルギウ・デジ

 ソヴィエト社会主義共和国連邦最高会議幹部会

 ソヴィエト社会主義共和国連邦大臣会議議長

 ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ブルガーニン

 チェッコスロヴァキア共和国大統領

 チェッコスロヴァキア共和国首相

 ウィリアム・シローキー

 これらの全権委員は、その全権委任状を示しそれが妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。

第一条

 締約国は、国際連合憲章に従い、その国際関係において武力による威嚇又は武力の行使を慎しみ、かつ、その国際紛争を平和的手段によつて国際の平和及び安全を危くしないように解決すること約束する。

第二条

 締約国は、国際の平和及び安全を確保することを目的とするすべての国際行動に、真正な協力の精神をもつて参加する用意があることを宣言し、かつ、これらの目的を実現するためにその全力を尽す。

 なお、締約国は、この問題について協力を希望する他の諸国との合意において、一般的な軍縮並びに原子及び水素兵器、その他の大量破壊兵器の禁止についての効果的な措置をとることについて努力する。

第三条

 締約国は、その共通の利益に関するすべての重要な国際問題について相互に協議する。この協議にあたつては、締約国は国際の平和及び安全の強化の視点によつて導かれる。

 締約国は、締約国の一又は二以上の国に対する武力攻撃の危険が生じたといずれかの締約国が認めたときには、その共同防衛を確保し、かつ、平和と安全を維持するために、その都度遅滞なく相互に協議する。

第四条

 ヨーロッパにおける締約国の一又は二以上の国に対するいずれかの国若しくは国家群からの武力攻撃の場合には、各締約国は、国際連合憲章第五十一条に従い、個別の又は集団的な自衛権の行使として、このような攻撃を受けた一又は二以上の国に対し、個別に、及び他の締約国との合意により、その必要と認めるすべての手段(武力の行使を含む。)により、即時の援助を与えなければならない。締約国は、国際の平和及び安全の回復及び維持のためにとるべき共同の措置について直ちに協議しなければならない。

 国際連合憲章の規定に従い、安全保障理事会は、この条に基いて執られる措置について通告を受けるものとする。これらの措置は、安全保障理事会が、国際の平和及び安全の回復及び維持のために必要な措置を執つた場合にはすみやかに終止されなければならない。

第五条

 締約国は、共同して定めた原則に基づいて行動する統一司令部を創設することに合意した。この司令部には、締約国間の協定によつて締約国の軍隊の一部が配置される。締約国は、また、その国民の平和的労働を保護し、その国境及び領域の不可侵を保障し、かつ、可能な侵略に対する防衛を確保するために、その防衛能力の強化に必要な他の合意による措置を執るものとする。

第六条

 この条約に規定する締約国間の協議の実施、及びこの条約の実施に関連して生ずる諸問題の検討のために、政治協議委員会を設置する。各締約国は、政府の構成員又は他のいずれかの特に任命された代表者をこの委員会に派遣する。

 委員会は、必要に応じて補助機関を創設することができる。

第七条

 締約国は、この条約の目的に反する目的をもついずれの連合若しくは同盟にも参加せず、また、そのようないかなる協定も締結しないことを約束する。

 締約国は、現行国際条約に基づく締約国の義務が、この条約の規定に反していないことを宣言する。

第八条

 締約国は、締約国がその独立及び主権の相互尊重並びに内政不干渉の原則に従つて、締約国間の経済的及び文化的関係の発展及び強化のために、友好と協力の精神で行動することを宣言する。

第九条

 この条約は、この条約に参加することによつて、諸国民の平和及び安全の確保を目的とする平和愛好国の努力の結集に寄与する用意があることを表明する他の国が社会及び国家制度に関係なく加入するために開放される。

 この加入は、締約国の同意があつたときは、加入書がポーランド人民共和国政府に寄託された後に、効力を生ずる。

第十条

 この条約は、批准されなければならない。批准書は、ポーランド人民共和国政府に寄託されなければならない。

 この条約は、最後の批准書が寄託される日に効力を生ずる。ポーランド人民共和国政府は、各批准書の寄託について他の締約国に通報しなければならない。

第十一条

 この条約は、二十年間効力を有する。この期間満了の一年前に、ポーランド人民共和国政府に対して廃棄宣言を提出しなかつた締約国に対しては、この条約は、さらに十年間効力を有する。

 この条約は、締約国が終始一貫して追求するヨーロッパ集団安全保障体制の結成、及びその目的のための集団安全保障に関する全ヨーロッパ条約の締結が行なわれたときは、その全ヨ−ロッパ条約が効力を生ずる日に効力を失う。

 千九百五十五年五月十四日にワルシャワで、ともに正文であるロシア語、ポーランド語、チェッコ語及びドイツ語により本書一通を作成した。この条約の認証謄本は、ポ−ランド人民共和国政府によつて他のすべての締約国に送達される。

 以上の証拠として、全権委員は、この条約に署名調印した。