データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 東南アジア集団防衛条約

[場所] マニラ
[年月日] 1954年9月8日作成,1955年2月19日発効
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),664‐669頁.主要条約集,1647‐1657頁.
[備考] 
[全文]

 この条約の締約国は、

 すべての締約国の主権平等を認め、

 国際連合憲章の目的及び原則に対する信念並びにすべての国民及びすべての政府とともに平和のうちに生きようとする願望を再確認し、

 国際連合憲章に従つて国民の同権及び自決の原則を支持することを再確認し、並びに自治を促進するために、及び人民が独立を希望し、かつ、その責任を果すことができるすべての国の独立を確保するために、あらゆる平和的手段によつて熱心に努力することを宣言し、

 平和及び自由の機構を強化すること、民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を支持すること、並びに条約地域内のすべての国民の経済的福祉及び発展を促進することを希望し、

 いずれの潜在的侵略者も前記の地域において締約国が団結していることを認めるように、団結の意識を公然とかつ正式に宣言することを意図し、また、

 平和及び安全を維持するための集団的防衛に対する締約国の努力を調整することを希望し、

 よつて、次のとおり協定する。

第一条

 締約国は、国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を、平和的手段によつて国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びにそれぞれの国際関係において武力による威嚇又は武力の行使を、国際連語の目的と両立しないいかなる方法によるものも慎むことを約束する。

第二条

 締約国は、この条約の目的を一層有効に達成するため、単独に及び共同して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗し並びに締約国の領土保全及び政治的安定に対して外部から指導される破壊活動を防止し及びこれに対抗する個別的及び集団的能力を、維持し発展させる。

第三条

 締約国は、その自由な諸制度を強化することを約束する。締約国は、また、経済的進歩及び社会福祉を促進すること、並びにこれらの目的のための諸政府の個別的及び集団的努力を助長することを目的とする経済上の諸措置(技術援助を含む。)を一層発展させるために相互に協力することを約束する。

第四条

1 各締約国は、いずれかの締約国又は締約国が全員一致の合意によつて将来指定するいずれかの国若しくは領域に対する条約地域における武力攻撃による侵略が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、その場合において自国の憲法上の手続に従つて共通の危険に対処するため行動することに同意する。この項の規定に基づいて執られた措置は、直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない。

2 条約地域内のいずれかの締約国又は1の規定が随時適用される他のいずれかの国若しくは領域の領土の不可侵若しくは保全又は主権若しくは政治的独立が武力攻撃以外の方法で脅かされ、又は条約地域の平和を危うくするような事実若しくは状態によつて影響を受け若しくは脅かされるといずれかの締約国が認めた場合には、締約国は、共同防衛のために執るべき措置について合意するため直ちに協議しなければならない。

3 1の規定に基づいて全員一致の合意により指定される国の領土又は同様に指定される領域に対しては、関係政府の招請又は同意がない限り、いかなる行動も執つてはならないものと了解される。

第五条

 締約国は、この条約の実施に関する事項を審議するため、各締約国の代表が参加する理事会を設置する。理事会は、条約地域において生ずる状態が随時必要とする軍事上その他の企画に関して協議を行なうものとする。理事会は、いつでも会合することができるように組織されなければならない。

第六条

 この条約は、国際連合憲章に基く締約国の権利及び義務又は国際の平和及び安全を維持する国際連合の責任に対しては、どのような影響も及ぼすものではなく、また、及ぼすものと解してはならない。各締約国は、自国と他のいずれかの締約国又はいずれかの第三国との間の現行のいかなる国際取極もこの条約の規定に抵触するものでないことを宣言し、及び、この条約に抵触するいかなる国際取極をも締結しないことを約束する。

第七条

 この条約の目的を促進し、かつ、条約地域の安全に貢献する地位にある他のいずれかの国は、この条約に加入するよう締約国の全員一致の合意により招請されることができる。このようにして招請された国は、その加入書をフィリピン共和国政府に寄託することによつてこの条約の締約国となることができる。フィリピン共和国政府は、その加入書の寄託を各締約国に通報する。

第八条

 この条約における「条約地域」とは、東南アジアの全般地域(アジアの締約国のすべての領土をも含む。)及び西南太平洋の全般地域(北緯二十一度三十分以北の太平洋地域を除く。)をいう。締約国は、第七条の規定に従つてこの条約に加入する国の領土を条約地域に含めるため、その他条約地域を変更するため、全員一致の合意によつてこの条を改正することができる。

第九条

1 この条約は、フィリピン共和国政府の記録に寄託する。同政府は、この条約の認証謄本を他の署名国に送付しなければならない。

2 締約国は、各自の憲法上の手続に従つて、この条約を批准し、その規定を実施しなければならない。批准書は、できる限りすみやかにフィリピン共和国政府に寄託するものとし、同政府は、その寄託を他のすべての署名国に通告する。

3 この条約は、署名国の過半数が批准書を寄託した時に、この条約を批准した国の間で効力を生じ、その他の国については、その批准書の寄託の日に効力を生ずる。

第十条

 この条約の有効期間は、無期限とする。ただし、いずれの締約国も、フィリピン共和国政府に対し廃棄通告を行つてから一年後に締約国であることを終止することができる。フィリピン共和国政府は、各廃棄通告の寄託を他の締約国政府に通報する。

第十一条

 この条約の英語による本文は、締約国に対し拘束力を有する。もつとも、締約国がフランス語による本文に同意し、かつ、フィリピン共和国政府にその旨を通告したときは、フランス語による本文は、ひとしく正文となり、かつ、締約国に対し拘束力を有する。

 アメリカ合衆国の了解

 アメリカ合衆国は、第四条1に規定する侵略及び武力攻撃の効果の認定並びにそれらに関する同意が共産主義者の侵略に対してのみ適用されるという了解の下に、この条約を実施する。もつとも、アメリカ合衆国は、その他の侵略又は武力攻撃の場合には、第四条2の規定に基づいて協議を行うことを確認する。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名した。

 千九百五十四年九月八日にマニラで作成した。