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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 大韓民国大統領盧泰愚閣下ご夫妻歓迎晩餐会での海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 総理大臣官邸
[年月日] 1990年5月25日
[出典] 海部演説集,326−328頁.
[備考] 
[全文]

 盧泰愚大統領閣下,令夫人,並びにご列席の皆さま

 私は総理就任以来,大統領閣下とお目にかかることを強く願っておりました。このたび閣下のご来日が実現の運びとなり,その願いがかなえられましたことは,私にとって大きな喜びであります。国務ご多忙の中,ご来日頂きましたことを感謝申し上げますとともに,ご一行に対して心から歓迎の意を表します。

 大統領閣下

 我が国と朝鮮半島は一衣帯水の地にあり,最も近い隣人という関係は,いかに国際情勢が変化しようとも,未来にわたって変わることはありません。このような両者の間に,密接な友好と善隣の関係が保たれることこそ,そこに住む人々の幸せとこの地域の平和の重要な基盤であります。

 にもかかわらず,数千年にわたる我が国と朝鮮半島の交流の歴史は,決して平らかとばかりは申せませんでした。

 私は,大統領閣下をお迎えしたこの機会に,過去の一時期,朝鮮半島の方々が我が国の行為により耐え難い苦しみと悲しみを体験されたことについて謙虚に反省し,率直にお詫びの気持を申し述べたいと存じます。

 我が国は,戦後,厳しい反省に立って平和国家の道を選択し,その後一貫して貴国をはじめ広く国際社会全体の信頼を回復することに努めてまいりましたが,私は,我が国は,今後ともこの姿勢を変えることなく,更にその努力を強めていかなければならないと考えます。日韓両国の悠久の善隣友好関係も,先ず我が国のかかる努力が貴国民に納得されてはじめて揺るがぬものとなるのでありましょう。

 論語に,「言必ず信あり,行い必ず果す」という言葉がありますが,私はこの人間としての道徳の第一歩は,国家が信頼をかちとるうえにも不可欠な要件であると考え,内政外交にわたる政治運営を進めてまいる決意であります。

 大統領閣下

 日韓国交正常化以来,既に四半世紀が経過しました。この間,両国関係で飛躍的な発展を見たことを,私は誠に喜ばしく存じます。特に交易や人的往来の面ではその前進は著しいものがありました。近年の交易量についてみると,我が国は貴国の貿易相手国として第二位,貴国は我が国の貿易相手国として第二位となりました。また,貴国からの我が国への訪問者はその数においてアメリカ人を抜き,第一位になったと聞きます。

 しかし,我々はこの量的交流の拡大に満足していてはなりません。貴国は,近年の目覚ましい成長を通じて,広く国際社会から,その貢献を期待される国となっており,我が国もまた,世界から大きな役割を果すことを求められる国となりました。しかも,両国は,単に隣国であるのみならず,自由と民主主義という価値観を共有しております。このような両国は,その協力関係の次元を更に高めて,世界の要請にこたえていかなければなりません。

 思い起こせば,両国間の交流の歴史は,遠く古代にまでさかのぼるものでありますが,我が国国民は,古代よりの貴国の文化に対し深い尊敬の念を抱いておりました。我が国に伝来する様々な芸術作品に,百済や新羅あるいは高麗という名称を冠したものが少なくないことを見てもこの事実は明らかだと申せましょう。

 本日,このたびの大統領閣下のご来日を慶賀して,雅楽と韓国国楽との交流演奏会が行われましたが,そこにおいて宮内庁楽部により演奏された曲目の中にも,高麗楽と呼ばれるもののうちの代表的な曲目が入っていたと聞いております。

 このような交流の伝統の上に立って,これからもますます多くの両国国民がお互いの文化に接する機会を持つことと思います。そして,私は,このような文化交流を通じ,両国国民間の相互理解と尊敬が更に増進されることを期待してやみません。

 大統領閣下

 大統領閣下のご滞在が短期間であることは誠に残念でありますが,薫風爽やかなこの五月は,日本の一年中で最もよい季節であります。閣下が有意義で,快適な旅行を楽しまれますよう,心からお祈り申し上げる次第です。

 ご列席の皆さま,盧泰愚大統領閣下と令夫人のご健康,大韓民国の益々のご発展を願い,日韓友好の末永い発展を祈念して,ここに杯を挙げたいと存じます。

 乾 杯!