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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 在日朝鮮人の帰還に関する日朝赤十字協定(日本赤十字社と朝鮮民主主義人民共和国赤十字会との間における在日朝鮮人の帰還に関する協定)

[場所] 
[年月日] 1959年8月13日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),926‐929頁.日本赤十字社外事課所蔵資料.
[備考] 
[全文]

 日本赤十字社及び朝鮮民主主義人民共和国赤十字会は、居住地撰択の自由及び赤十字の諸原則に基き、在日朝鮮人がその自由に表明した意思によつて帰還することを実現させるため、次のとおり協定する。

第一条 帰還者の範囲は、帰還を希望する在日朝鮮人(日本の国籍を取得した朝鮮人を含む。)とその配偶者(内縁関係の者を含む。)及びその子、その他それに扶養されている者で共に帰還することを希望するものとする。この場合十六才未満の者については、親権者又は後見人の意思による。ただし、日本の法令により出国を認められない者は除かれる。

第二条

1.帰還を希望する者は、日本赤十字社の定める様式による帰還申請書を本人自身が直接日本赤十字社に提出し、所要の帰還手続きをとらなければならない。

 申請は自由意思に基くものであり、かつ本協定に掲げる条件を満すものでなければならない。

2.帰還申請書を提出した本人から個別的事情によつて帰還しないとの要請を受けた場合には、日本赤十字社がこれを処理する。

 帰還意思の変更は乗船前一定時間まで許される。

第三条

1.日本赤十字社は、帰還希望者の登録機構を組織する。この登録機構は所要の補強を行つた上、日本赤十字社の現在の組織をもつてこれに当て運営される。

2.日本赤十字社は、赤十字国際委員会に対し、帰還希望者の登録機構の組織と運営とが人道的原則に則つた公平なものであることを保障するために、赤十字国際委員会が必要かつ適当と考える措置をとることを依頼する。

 前記の措置の内容は次のとおりである。

(イ)日本赤十字社が帰還希望者の登録機構を組織する場合、助言を与えるよう依頼する{原文に句点なし}

(ロ)前記の登録機構の運営が適当であるかどうかを確かめるよう依頼する。

(ハ)前記の登録機構の運営について必要な助言を与えるよう依頼する。

3.日本赤十字社は、本協定が人道と赤十字の諸原則に合致したものであることを、放送を通じて公告するよう赤十字国際委員会に依頼する。

第四条 帰還に関する手続きを終えた者の引渡しと引受けとは、乗船港において日本赤十字社代表と朝鮮民主主義人民共和国赤十字会代表との間においてこれを行う。

 前項の引渡しと引受けは、帰還者名簿と確認書との交換をもつて完了する。

第五条

1.帰還船は、朝鮮側が配船して、その費用を負担する。帰還船が遵守すべき事項は、付属書で定める。

2.日本側は、新潟港を帰還者の乗船港と指定し、朝鮮側は、羅津、清津、興南の三港をその下船港と指定する。

3.帰還船の配船問題は、帰還希望者数と配船準備状況に基いて決定するものとし、帰還希望者の毎回の集結する期日の間隔を七日前後とし、毎回の人数を約千人と予定する。ただし帰還希望者数の増減によつてこれを日朝両赤十字団体協議の上適宜変更するものとする。

4.帰還希望者の状況により必要がある場合は、日朝両赤十字団体協議の上施設及び輸送の増強を計るための必要な措置をとるものとする。

5.帰還者の第一帰還船は、日朝両赤十字団体間に締結された本協定が効力を発生した日から三箇月以内に乗船港から出港するものとする。

6.日本赤十字社は、毎回の帰還希望者の概数、指定港及び帰還船の指定港への到着期日を予め朝鮮民主主義人民共和国赤十字会へ通告する。

 帰還船は、前項の通告による指定期日に指定港に到着するよう期する。ただし、気象条件その他止むを得ない事情のある場合は日朝両赤十字団体協議の上これを変更することができる。

7.日本側は、帰還船に対する補給と通信連絡並びにその他必要な便宜と協力とを提供する。その費用は、朝鮮側の負担とする。

第六条

1.日本赤十字社はその定めるところにより次の便宜を帰還者に供与する。

(イ)帰還者が居住地を発つてから集結地までの輸送費、食費、六十キログラム(帰還者一人当り)までの荷物の運賃及び応急医療費

(ロ)集結地における乗船までの宿泊、食事、応急医療費及び輸送

2.帰還者は、一人当り日本の通貨四万五千円までを英ポンド小切手で携行することができる。

 前記の限度を超える日本の通貨を所有する者は、本人名儀{前1文字ママ}で日本の銀行に預金し、後日本人の申請に基き、日本の法令によつて外貨で引き出すことが認められる。ただし、本人が日本で使用する場合には、日本の法令によつて、日本の通貨で引き出すことが認められる。

 株式公債等の証券及び預金通帳等の携帯持ち出しは、認められない。

3.帰還者の持ち帰りできるものは、旅行携帯品、引越荷物及び職業用具とする。

 日本の法令によつて輸出が禁止されているもの及び違反品は携帯することができない。

4.日本側は、帰還者が持ち帰る一切の財産に対して関税を賦課しない。

5.日本側は、帰還者が止むを得ない事情によつて持ち帰れない財産に対して引続き本人の所有権を法的に認める。

6.朝鮮側は、帰還者が乗船した以後の輸送及び食事、宿泊費等一切の費用を負担し、医療上の服務を無償で提供する。また帰還者の帰還後の生活安定のため、その住宅、職業、就学等すべての条件を保障する。

第七条 帰還船には、朝鮮民主主義人民共和国赤十字会代表(複数を含む。)が乗船するものとし、同代表は、その帰還船が乗船港に碇泊する期間中その港域内に滞在して帰還者の引受け、連絡及び帰還者の帰還協助に当る。

第八条

1.日本赤十字社は、本協定の内容及び帰還手続きを可能な限り出版、報道手段を利用して在日朝鮮人に周知徹底を図る。

2.帰還者のうち、国籍問題解決を希望する者に対して、日朝両赤十字団体は、必要な協力をする。

3.本協定の実施につき必要な連絡は、電信、文書又は指定港において日朝両赤十字団体の代表間で行うことができる。

第九条 本協定の有効期間は、調印の日から一年三箇月とする。

ただし、この期間に帰還事業が完了できないと認められる場合は、協定期間終了三箇月以前に日朝両赤十字団体協議の上本協定をそのまま又は修正して更新することができる。

 

付属書

帰還船が出入港に際し遵守すべき事項

一、帰還船は出港した港から直航して日本赤十字社が指定する月日に新潟港に到着する。

二、帰還船は日本赤十字社が指定する到着月日三昼夜前に出港する港名、出港予定日時、船型、船舶名、呼出符号、使用周波数、総屯数、きつ水、航海速力、帰還者搭載可能人員数、船長名、船員数及び国籍、船員以外の乗船者数及び国籍を日本赤十字社に電報で通知する。

三、帰還船は出入港に関する諸手続については日本赤十字社が斡旋する代理店(以下代理店という)を通じてこれを行うものとする。

四、帰還船は出港後直ちに代理店に電報で出港を通知するとともに入港予定日時を通知し又到着六時間前に船舶の位置及び航海中の病人の有無を通知する。

 なお連絡海岸局は新潟海岸局、呼出符号JKP周波数四三八KCである。

五、帰還船は新潟港の検疫錨地(北緯三七度五八分東経一三九度〇三・五分付近)に碇泊して日本の当該関係機関の検査を受けた後水先案内人によつて入港し指定する場所に碇泊すること。

 なお入港は日出時より日没時までとする。

六、帰還船の乗員は必要のある場合には入国審査官の許可を受けた後上陸することができる。この場合寄港地上陸許可申請書を一通提出することを要する。

七、帰還船が日本の当該関係機関に申請連絡又は質問する場合は日本語若しくは英語を用いる。

八、帰還船は入港に際し次の書類を提出若しくは提示する。

入港届 四通提出

明告書 一通提出

乗務員名簿 三通提出

旅客名簿 三通提出

船用品目録 一通提出

托送品目録 一通提出

ねずみ族の駆除に関する証明書 提示

予防接種証明書 提示

九、帰還船は出港前に次の書類を提出する。

出港届 四通提出

乗務員名簿 一通提出

旅客名簿(帰還者名簿を除く) 一通提出

十、帰還者は日本の規定する屯税等所要の費用を外国為替をもつてこれを支払うものとする。

 帰還船は最初に到着する三日前までに代理店に対し七千米ドル若しくは二千五百ポンドの為替を預託するものとする。

 前記の預託金に不足を生じたる場合は改めて預託するものとする。

 この場合に代理店は、帰還船と予め協議の上、帰還船がいつでも必要な金額を受け得る条件を整うべきである。

十一、その他帰還船は日本の法令を遵守するほか帰還輸送の実施につき日本の当該機関の指示に従わなければならない。