東洋文化研究所所蔵
中国近現代経済史研究史料目録

 本目録は、東洋文化研究所所蔵中国近現代経済史研究史料、全477点の目録である。
 この史料群は、主として濱下武志・元本研究所所長により香港の古書店を経由して収集されたものである。本研究所が受け入れた後、約半数について図書番号が付され簡単な目録が作られたものの、公開には至らなかった。新たに全点に請求記号を付けた上で、目録を作成した。
 本史料群の中心をなすのは、20世紀香港において華人が経営する商店や企業の帳簿史料である。1950~70年代が最も多い。これらの帳簿は、後からの編纂物ではなく、各商店が取引の過程で記したものである。いわば生の経営状況、取引状況を分析できる第一次資料として、近現代の経済史研究にとって、裨益するものになろう。
 なお、これらの帳簿で用いられる、いわゆる「中国固有収支簿記法」については、長崎華商の帳簿を利用した山岡由佳『長崎華商経営の史的研究――近代中国商人の経営と帳簿』(ミネルヴァ書房、1995年)などの先行研究により、その記帳の様式と方法が明らかにされてきた。目録作成に際しても、先行研究を参考にした。

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中国近現代経済史研究史料目録生泰號文書

1.目録作成項目について

【登録番号】
東京大学に資産登録される際に付けられる番号を記した。
5桁および6桁のものは、今回の目録作成作業以前に既に付されていたもの、10桁のものは、今回の作業の過程で付したものである。
【請求記号】
本史料群を閲覧請求するための請求記号を記した。すべて今回新たに付したものである。
請求記号の付け方の原則は、以下の通りである。
(大分類):(中分類):(小分類)CF91:1:1のように付した。
大分類(例:CF91)=本史料群固有の番号CF91を新たに設けた。
中分類(例:  1)=商号ごとの中分類。同一商号のものが4点以上ある場合は独立した分類番号(1~17)を設けた。その他はすべて番号18にまとめた。
小分類(例:  1)=中分類中の順序号。帳簿種類名順と、年代順に並べてある。
【箱番号】
整理終了後の帳簿を保管する中性紙箱に付された番号を記した。
【タイトル】
帳簿のタイトルを記した。タイトルは、すべて今回新しく付けたものである。可能な限り、「商号名 帳簿種類名 年代 帳簿番号」をタイトルに採用した。帳簿種類名は、基本的に現物の表紙・底面等に書かれているものを選択したが、同種の帳簿については統一名を付与したものもある。なお、現物の記載に関わらず、タイトルでは正字で統一した。
【表紙記載文字】
表紙に記載されている文字を、そのまま記した。蘇州碼字で書かれているものは、1966のように、イタリック体のアラビア数字で示した。不明字は □ で記した。
【その他記載事項】
表紙以外に記載される情報の内、1.帳簿の底面や側面に書かれる文字、2.帳簿に夾まれる紙の情報、3.帳簿の内容に関する概要や特記事項、などを記した。
蘇州碼字、不明字の扱いは「表紙記載文字」に準じた。
【年代】
史料の作成された年代を西暦で記した。なお、多くの場合、帳簿上の一年の区切りは農暦一月一日であるため、西暦年度とはずれがある。
【商号名】
商号名を可能な限り比定して記した。なお、商号名についての明確な記載がなく、帳簿の形式や外観などから比定したものについては、[ ]を付した。
【サイズ】
帳簿の縦横の寸法(単位:センチ)を記した。センチ以下は切り捨て。
【紙製造元】
表紙が破損している場合など、紙の製造元およびサイズも、商号を比定するための情報になることがある。帳簿に用いられている紙の製造元を、わかる限り記した。
【備考】
保存状態などを記した。

2.その他の特記事項メモ

 目録のスペースに載せきれないが、特記すべき内容をメモ的に記す。とりわけ、帳簿に差し挟まれたり貼付されたりしている各種書類についての情報を提供する。また、網羅的に調査できたわけではないが、毎年一冊出版される華僑日報営業部『香港年鑑』中の「工商名録」で確認できた商号については、その情報を付記した。
【滄洲行帳簿】(CF91:1:1~18)
『香港年鑑』1962年版には飲食類―燒臘鹵味業に「滄洲行 永樂西街一九二號 電話:四三九八二八」と載る。
【廣州市台山會館主簿】(CF91:2:1~14)
内容はすべて同一であり、表紙に書かれた氏名と番号のみが一冊ごとに異なる。冒頭に「廣州市台山會館産業管理委員會組織大綱、中華民国二十五年 月 日」を載せる。裏表紙には「留鴻 廣州市龍藏街門牌六十九號 自動電話壹壹八四零」と書かれる。「廣州市台山會館産業管理委員會委員」15名の名あり。
【黄貞菴帳簿】(CF91:4:1~22)
『香港年鑑』1972年版には工廠類―化工製藥業に「黄貞菴藥厰、永樂東街七五號、H四四〇三五五」と載る。
【品陞餐室・品園帳簿】(CF91:10:1~22)
食堂の収支簿。品陞餐室と品園は別の食堂であるが、帳簿の形式から、同一の経営主体に係るものと考えられる。多くの帳簿には所々に取引内容を記したメモが挟まる。外販用の袋の裏にメモしたものもある。
帳簿に挟まる「外賣單」には「品陞餐室 九龍深水埗北河街143號」「品園餐室 九龍旺角上海街六零二號 電話五七六一四」とある。『香港年鑑』1962年版には飲食類―餐室冰室業に「品陞餐室 北河街一四三號、電話八〇八九七七」「品園、上海街六〇二號、電話五七六一四」と載る。
【黄北記帳簿】(CF91:11:1~53)
紙や文具などを取り扱う商店の帳簿。他の商店が扱う帳簿でも、この商店の銘が印刷された紙を使用されている場合がある。『香港年鑑』1971年版には婚喪類―香燭紙料業に「黄北記 大道西二一〇號 (電話)H四三五四〇六」と載る。
【彬記帳簿】(CF91:12:1~20)
『香港年鑑』1962年版には居住類―水喉潔具業に「彬記、太原街七號、電話七二四五七四」と載る。
【協昌合記帳簿】(CF91:13:1~8)
CF91:13:4およびCF91:13:5には、銀行が発行した取引明細書がホチキスなどで帳簿に貼り付けられ、その内容が帳簿に転記されている(CF91:13:4は海外信託銀行、CF91:13:5は中国聯合銀行のもの)。銀行の取引明細の宛名は「HIP CHEONG HONG HOP KEE」。
【西湖帳簿】(CF91:14:1~105)
本史料群中で最も冊数が多く系統立って残されている。注文衣料に関する布地等の仕入、製品の注文・販売、および縫製工の工賃などにつき、それぞれの帳簿が残される。
CF91:14:30に夾まれた封筒の宛名は「西営盆 大道西214号 西湖大布店収内交 游耀明収啓」である。『香港年鑑』1960年版には衣着類―絲髪綢緞業「西湖綢緞庄、大道西二一四號、電話四五四〇五」と載る。
【保生昌帳簿】(CF91:15:1~15)
薬剤関係の発貨単、収拠などが多く夾まれている。
【その他】(CF91:18:1~74)
*CF91:18:1~53。商店・企業の帳簿である。表紙の破損や、表紙の記述がない等の理由で、商店名・企業名が比定できていないものは分類せずここに入れてある。内容を精査すればCF91:1~18のいずれかと同じ商店名・企業名であると同定できるものは複数あると思われる。
*CF91:19:58~72。1900年代から1950年代までの雑多な簿冊である。葬儀時の列席名簿、土地・家屋に関わる契約文書の写し、猫や犬にやった餌の代金なども含まれる。
*CF91:19:9。帳簿に約50件の書類が挟まれたり貼付されたりしている。帳簿の成立年代は1976年だが、それら書類の年代は、1920年代まで溯る。書類の内容は、書簡およびその草稿、税や土地関係のメモ、澳門嶺華中学校小学部の卒業証書、など多様である。広州と香港の間でやり取りされた書簡など、広州市に関わる書類も多い。

3.生泰號文書について

 今回、上記の目録作成作業と合わせ、「生泰號文書」全95点に関しても同様の目録を作成した。「生泰號文書」の内容や帳簿の形式については、前掲の山岡著書、とくに第3章、第5章を参照されたい。

2007年3月
 相原佳之
(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)

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